ビールとポップコーン

ネタバレ書かずに、観た映画(ときどき読んだ本など)を雑文多めに記録しています。

「ヤクザと憲法」を観ました

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ヤクザと憲法(2016)

「ホンモノのヤクザの生活を追ったドキュメンタリー」ということで、どんなヒリヒリする現実が収められているのだろうとドキドキしながら観ました。「ナニワ金融道」とか「疫病神シリーズ」に登場するようなヤクザのイメージを勝手に抱いていたので、羽振りが良く、あわや刺し違えるようなハラハラシーンもあったりして?なんて思っていたのですが、全然違いました。でもそれは、いい裏切りというか、自分が想像していたのと違う意味でショックな内容でした。まず最初に「謝礼は支払わない、モザイクはかけない、取材テープのチェックはさせない」という取材の条件が紹介されて「このドキュメンタリー信頼できるかも」と思いました。

ヤクザは「暴力団」と呼ばれてひとくくりにされ、暴対法によって銀行口座も作れなければ保険も適用されない。それらを得ようとすると「詐欺」で逮捕されてしまうのです。彼らの子どもは「ヤクザの子」という理由で学童にも通えない。そこで「ヤクザやめます」と言ったところで、一体誰が受け入れてくれるのか?と会長は言います。

「暴対法」は暴力団から一般市民を守る法律だけれど、その法律によってヤクザの人権は完全に無視されています。それは日本国憲法第14条に反しているのではないか、と提起しています。

すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

日本国憲法第14条 - Wikipedia

本編では生活者としてのヤクザを映し出していて、それは私の想像とはまるきり違うものでした。ラフな格好で、何をするでもなく日がな事務所でタバコをふかし「暇だな〜」という強面の男性たち。部屋住みの若者は、いかにもヤンキー上がりではなくてごく普通の大人しそうな青年。部屋にある大きなアウトドアのバッグを見つけたディレクターが「これ何ですか?」と質問すると「テントです」と普通の答えが返ってきて、「マシンガンとか入ってるんじゃないんですか?」なんて命知らずなツッコミをすると「ほんとにテントですよ〜」と笑顔で中を見せてくれるのです。

本編では暴力団関係者の弁護士として有名な山之内幸夫さんも取材しています。山之内さんは法律家として、ヤクザの人権を擁護してくれる数少ない人物です。ヤクザと一般市民のちょうど中間に立っているような存在に見えましたが、山之内さんに対する警察の仕打ちがいちばん恐ろしいと思いました。

抗争で一般市民が巻き添えになったり、違法薬物が蔓延したり、そういう凶悪犯罪集団としての「暴力団」は排除すべきだと思います。でもいちばん乱暴なのは、暴対法を盾にした警察なんじゃないかと私には思えました。何というか、吉本新喜劇みたいにヤクザと市民が人情で共存できる世の中にはできないのかな?と思いました。

 

私の実家の隣はヤクザの事務所でした。もともとは一人暮らしのおばさんが犬と一緒に住んでいたのですが、借金のカタかなにかでヤクザに家を取られてしまったようでした。私が小学生の頃は暴対法なんて無かったから、黒地に金文字の看板が表に見えるように堂々と掲げられていたし、いかにもヤクザ風なおじさんたちが賑やかに出入りしていました。

夜中に男性の怒鳴り声と「ボコッ」という鈍い音を聞いたことがあります。翌朝学校に行くときに道路に血だまりを見つけ、昨夜の音が人を殴る音だったのだと、小学生の私は初めて知りました。

怖い思いをしたのはそのたった一度だけで、直接恐怖を覚えたことはありません。ヤクザのおじさんたちは登下校の私を見かけると笑顔で挨拶してくれたし、時々キャンディなんかをくれたし、地域の掃除などにも積極的に参加していました。事務所のリフォームの際には「ご迷惑をおかけします」と近隣一帯に菓子折りを持って丁寧に挨拶回りしていたし、我が家の狂犬(ミニチュアピンシャー)が脱走した時は母と一緒に探し回ってくれたそうです(無事見つかったあと、狂犬がヤクザのおじさんに牙を向けて飛びかかった時、さすがに母は肝を冷やしたらしいです)。

実家の家族も近所の人たちも、ヤクザのことを地域の一員として受け入れていました。ヤクザであることを除けば、気のいいおじさんそのものでした。

暴対法が施行されたり、暴力団による市民を巻き込んだ事件があったりして、隣の事務所は看板を隠し、あんなに活発だったおじさんたちの出入りもすっかりなくなりました。

人の出入りを最後に見たのは数年前です。実家に帰省している時、今風の(三代目JSBみたいな)かっこいいお兄さんが数名出たり入ったりして、早々に帰って行きました。私の知っているヤクザ風情のおじさんはおらず、車はお決まりのメルセデスではなく、おしゃれなミニクーパーでした。

 

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