ビールとポップコーン

ネタバレ書かずに、観た映画(ときどき読んだ本など)を雑文多めに記録しています。

「そこのみにて光輝く」を観ました

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そこのみにて光輝く(2014)

山下敦弘監督の「オーバー・フェンス」が佐藤泰志という作家の函館3部作の3作目だと知り、「オーバー・フェンス」がとてもいい物語だったので3部作の第2作目も観てみました。

まず、佐藤泰志という作家をまったく知らなかったのでウィキペディアを見てみたら、1949年函館生まれの作家で存命ならば68歳。というのも、1990年に41歳で自死しているそうです。それまでの間何度も芥川賞の候補になり、他の新人賞の候補にも何度も名前が挙がり、本作「そこのみにて光輝く」は三島由紀夫賞の候補になっています。しかし一度も受賞することなく、陽の目を見ぬまま亡くなった作家。死後17年後の2007年に、それまで絶版となっていたものの作品集が刊行され、再評価と多くのファンを得ることになったそうです。

佐藤泰志 - Wikipedia

そんな原作者の人生を知り、より原作に対する尊敬のようなものが強くなった気がします。

 

山での発破を仕事にしていたけれど、ある理由があって今は働かず、パチンコをしたり酒を飲んだりしてくれしている主人公の達夫(綾野剛)。ある日パチンコ店で「火を貸して」と言われライターを貸すと、そのお礼に「メシおごる!」と言われます。それが若いチンピラ風の男、拓児(菅田将暉)との出会いであり、拓児に連れられて訪れたおんぼろ家の自宅で出会うのが、拓児の姉の千夏(池脇千鶴)でした。

この作品は、どの登場人物も「どうしようもなさ」を抱えていて、綾野剛演じる達夫は過去に起きたある事故によって自責の念に苛まれているし、池脇千鶴演じる千夏は、家族を支えるため昼はイカの塩辛工場で働き、夜は場末のスナックで売春をしています。でもって、傷害事件で刑務所の保護観察処分中の弟、拓児の身元引き受け人になってくれている植木会社の社長との「腐れ縁」を切れずにいます。千夏と拓児の父は脳梗塞だか認知症だかで寝たきりだけれど、強い性欲があって、それを抑える薬を飲むとどんどん頭がダメになるから、という理由で千夏や千夏の母が性処理をこなす毎日……。

とにかく、救いようのないくらいにどん底で貧しくて、みすぼらしい。物語は達夫と千夏のラブストーリーで、こんなどん底の中で最後の最後に少しだけ希望の光が見えるラストになっているのが唯一の救いです。

綾野剛の控えめな演技も良かったのですが、池脇千鶴菅田将暉のちょうどいいリアルがすばらしく良かったです。髪の毛の色、服のヨレ具合、千夏の肉感的な身体つき、拓児の歯の黄ばみ。これらのディテールと、発せられる言葉や態度からうかがえる生活臭が完璧でした。

池脇千鶴はどんな役でもしっくり演じちゃうから凄い。とりわけ、本作や「ジョゼと虎と魚たち」みたいに、恋心を募らせるのと同時に苦悩する、という役柄は唸るほど上手い。女性ならではの強さと弱さと優しさを表現できる女優さんだなー。

それから菅田将暉ってこんなに演技派だったんだ!と驚きました。綾野剛に引けを取らない存在感で、「よくいる(みんなが知ってる)チンピラ」を好演しています。ていうかもう、完成されたチンピラだった。菅田将暉の愛嬌、無頓着な明るさ、姉や家族を想う純粋さが、この映画全体の明度を上げることに貢献しています。そうじゃないと、この映画、まじでほとんど真っ暗闇です。

 

 

そこのみにて光輝く