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ビールとポップコーン

ネタバレ書かずに、観た映画(ときどき読んだ本など)を雑文多めに記録しています。

「あん」を観ました

★★★★★

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あん(2015)

樹木希林市原悦子(2人とも大好き)が一緒にあんこを作るハートウォーミングなコメディ映画かと思っていたら全っっ然違って、ものすごくいい映画でした。教材にしていいと思う。というかすべきだと思う。

原作未読で河瀬直美監督作品も初めて観たのですが、河瀬監督ってカンヌに気に入られているしパリッとした雰囲気なので、もっと個性的というか独特な世界観を表現する方だと勝手に思っていました。でもこの映画はまったく違って、誰もが正しいメッセージを受け取れる作品でした。

光を多用した美しい映像と自然の音、そしてごく自然体な会話の演技。特に樹木希林永瀬正敏内田伽羅の3名は、そこに全く演じている感がなく役柄そのもののように見えました。

「病気に対する偏見」や「人が人として生まれ生きてゆくこと」をテーマにしていますが、説教臭さや押し付けがましさが無いところがいい。感動や同情の押し売りは、もうたくさんです。

 

物語は、桜の季節の小さなどら焼き屋さんから始まります。店長の千太郎(永瀬正敏)は無口で愛想もありませんが、店には学校帰りの女子中学生がキャッキャと集い、そこそこに商売は成り立っている様子。

ある日、1人のおばあさんがやって来て「時給300円でも200円でもいいから働かせてください」と言います。徳江と名乗るそのおばあさん(樹木希林)は、両手が少し不自由でした。千太郎は「力仕事とかできないでしょ」と言って断りますが、おばあさんは度々やって来ます。そこで「お代はいらないから」と言ってどら焼きを1つ徳江さんに渡し、帰ってもらいました。

後日、再びやってきた徳江さんは「生地はいいのだけど、“あん”がねぇ」と言って、紙袋を置いて去って行きます。紙袋の中身は、徳江さんお手製の“あん”でした。タッパーごとごみ箱へ放って仕事に戻った千太郎ですが、ふと思い立ったようにタッパーを拾い上げ“あん”を舐めてみたところ、今まで食べたことがない程に美味しい“あん”だったのです。

 

手が不自由な徳江さん、どら焼き屋さんの店長をしている千太郎、家庭の事情から「高校には進学しないかも」と言う中学生のワカナちゃん(内田伽羅)。この3人の関わりが、人が生きるということの何たるかを教えてくれます。徳江さんの不自由な手については言及を避けますが、かつてひどく差別された病気が原因です。

高校生の頃、国を相手にした大きな訴訟でその病気の元患者の方々が勝訴したニュースを見たのをよく覚えています。そしてそのニュースが報道された時、クラスの友人から病気に対するとてもショッキングな話を聞いたことも忘れられません。

友人はその話を「母親から聞いた」と言っていました。友人の母親は、自分が幼少時代に目にした患者について、ありのままを娘に話しただけかもしれませんが、友人は好奇心と恐ろしさをもって私に話していたように思います。私の母が医療従事者だったこともあって色々な病気について母に話を聞いたり尋ねたりしていた私は、その病気についても少しばかり知識があったので、なんだかとても胸がざわついたのを覚えています。

その胸のざわつきは、何だったのか。いまあらためて考えてみると「無知であることは罪だ」ということなのかな、と思います。無知であるがゆえに差別や偏見は生まれ、想像するという行為が奪われる。そこに、自分とは異なる他者の心や人生を慮り受け入れる、という理解と寛容は絶対に存在しません。

 

この映画のように、正しい知識を得るきっかけとなる素晴らしい作品が、もっともっと大衆的に広まったらいいな、と思います。

 

あん DVD スタンダード・エディション