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ビールとポップコーン

ネタバレ書かずに、観た映画(ときどき読んだ本など)を雑文多めに記録しています。

「名もなき塀の中の王」を観ました

★★★★☆

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名もなき塀の中の王(2013)

刑務所映画、という情報だけで、監督も出演者も知らず、まったく期待しないで観たのですが、これがなかなかの掘り出し物でした。暴力シーンは多いけれど、犯罪映画というより人間の成長物語です。

映画は、1人の若い男が刑務所に移送されてくるところから始まります。エリック・ラブ、という名前のその男は身体検査を終え、透明のビニール袋に入れられた私物を持って檻房へと移動するのですが、檻房へ入り1人になるやいなや、歯ブラシやライターを器用に使って即席凶器を作り、さらに驚いたのが即席ドライバーを作って天井の照明を開け、そこに手づくり凶器を隠すのです。この手際の良さで彼がタダモノじゃないって事が分かり、派手なアクションバイオレンス映画の予感がしました。が、それは完全に早とちりでした。

そして、そう日が経たないうちにエリックは暴力事件を起こすのですが(このシーンでもボディオイルに砂とか、後手に手錠でジョンソンのジョンソン(笑)に噛み付くとか、色々すごい)、そこでようやく彼が19歳で少年院から成人刑務所に移送されてきた要注意人物だってことが分かり、また彼が成長するきっかけになるカウンセラーのオリバーに出会います。

そしてさらにもうひとつ、エリックが幼い頃に生き別れた父親と、刑務所の中で再開するのです。父親は長年の刑務所暮らし(どうやら終身刑)の中で身につけた、様々な暗黙の掟をエリックに教えます。刑務所の中、とはいえ、初めて親子の時間を共有するエリック父ですが、父親としてどう接すべきか悩み、エリックもまた、父親の助言を押しつけがましく感じるのです。

この映画では囚人たちのバックグラウンドは説明されず、主人公のエリックも、どの様な罪で収監されたのかは明かされていません。脱獄もないし、エリックが「塀の中の王」に成り上がるってこともないし、実はエリック父が極悪人でエリックを陥れようとしていた…という展開もありません。かといって、カウンセラーが奇跡を起こす !ってこともなく。

そういうエンターテインメント要素を盛り込まず、他人を一切信じず暴力しか知らなかった青年が自制心を教えられ成長しようとする姿、また特殊な環境で息子に父親らしい事をしてあげたいと願い葛藤する中年男の姿を、的確に表現しています。エリックにほのかな希望が見えるラストも、派手さがなくてよかったです。

英語の訛りからイギリス映画ってことが分かるのですが、アメリカ映画の刑務所と比較すると、食事シーンが大きく違いました。こういう発見は、地味におもしろい。映画を通してアメリカ、イギリス、日本の刑務所の様子を見ましたが、日本の刑務所がいちばん厳しいんじゃない?と思いました。欧米映画で刑務作業なんて見たこと無いし、刑務官に「願いますっ!(ビシッ)」って挙手して「小便願いますっ!」とかありえない雰囲気(花輪和一原作の「刑務所の中」は原作漫画も映画も好き)。

あと疑問なのが、「名もなき塀の中の王」っていう邦題です。これはどういう意味なのかさっぱり分かりません。ちなみに原題は「Starred  Up」で「刑務所のJargon(専門用語)で、少年刑務所から途中で成人の刑務所に昇格したという意味」だそうです*1。そのままで分かりやすく、しっくりきます。この映画が日本で劇場公開された時にどのくらい話題になったのか知りませんが、いい映画なのに流行らなかったのだとしたら、この邦題にもちょっと原因があるかもしれないなー、なんて思います。

 

名もなき塀の中の王 [DVD]

*1:こちらのブログを参照させていただきました。

http://inutomchan0105.blog127.fc2.com/blog-entry-1109.html