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ビールとポップコーン

ネタバレ書かずに、観た映画(ときどき読んだ本など)を雑文多めに記録しています。

「サンドラの週末」を観ました

★★★★☆

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サンドラの週末(2014)

病気のため休職していたサンドラ(マリオン・コティヤール)は職場復帰しようとした矢先、「あなたの復職かボーナスか選ばされ、ボーナス多数になりあなたの復職は無くなった」と同僚から知らされます。飲食店で働く夫の収入だけでは家賃や養育費など賄う事ができず、無職になるわけにはいかないサンドラ。同僚に説得され連れ立って社長のもとに詰めかけたサンドラは、「週明けの月曜日に無記名での再投票」という約束にこじつけます。こうしてサンドラは、週末に同僚の家を訪ね「私の復職に投票してほしい」と説得するのです…。

サンドラの休職理由はうつ病で、しきりに抗不安薬のようなものを服用し、副作用か緊張からなのか水をがぶがぶ飲み、何かあるとすぐに眠ろうとします。そんな彼女が「ボーナスより私を選んでください」と同僚の家を一軒一軒まわって説得しなければならないのだから、それはもう大変なことです。健全な精神の持ち主だって、(図々しい自己中人間でない限り)相当キツイ。

そのうえ同僚たちの話を聞くと、家族の失業や夫との離婚、こっそりダブルワークをしないと成り立たない家計など、それぞれ逼迫した生活を送っていることを知り、「ボーナスを諦めてほしい」なんて主張は到底できなくなってしまいます。

また、良心の呵責や同情から「あなたの復職に投票する」と言ってもらえたとしても、自分はなんだかまるで乞食のようだと惨めな気持ちになってしまい、素直に喜べずに憂うつになってしまうのです。

そもそも、会社が「ボーナスか、同僚の復職か」を従業員たちに決めさせるというのは極端な設定のような気もしますが、実際そういうこともあるのかも知れないし、何よりこの映画ではテーマにつながる単なるきっかけなのだと思います。工場で働く(恐らく誰でもできる仕事をしている)人々の、1,000ユーロという「諦めることもできるけれど生活の足しにしたらすごく助かる」絶妙な金額のボーナスと、自分の復職が天秤にかけられる、というのは世相を反映したうまい設定だなーと思いました。

そしてこの映画のテーマは、人間は他者に認められたり必要とされたりすることで、自分の存在意義を確認できるのだ、という事だと思います。そうして初めて自分に自信が持てたり、他者を思いやったりすることができるのです。サンドラは、同僚たちに自分勝手な依頼をしている事を分かっています。それを踏まえて「わたし or NOT」を確かめていくプロセスを、この映画では省略せずに映しています。こうしてコツコツ集めた先義後利の約束が、最終的にサンドラに自己容認をもたらしてくれるのです。

自然なカメラ構成やBGMを使わないこと、淡々と進んでいくストーリーなど、とても静かで深い映画でした。ダルテンヌ兄弟の監督作品は他に「少年と自転車」しか観たことが無いのですが、社会的弱者の立場から問題提起をする表現が仰々しくなくていいですね。

サンドラ役のマリオン・コティヤールも、スッピンで雑なヘアスタイルに安っぽい服とバッグで、それが生活感丸出しリアルですごく良かった。(もちろん、カンヌで着ていたイケてるマルジェラドレス&シューズの方がお似合いだけどね!)

 

サンドラの週末 [DVD]